時頃一人の男が訪ねて来た。例によって覗いていると、その男はドーブレクに対して流涕《りゅうてい》して哀訴し合掌して嘆願し、最後にはピストルを振《ふる》って威嚇したが、ドーブレクはセセラ笑って取りあわない。ついにその男は千|法《フラン》の紙幣三十枚を代議士の前に差し出して帰って行った。門外に見張っていた部下から翌朝になって前夜の男は独立左党の領袖《りょうしゅ》ランジュルー代議士で生活困難家族多数という報告が来た。
 三日後に前大臣で、元老院議員ドショーモンが来、その翌日ポナパル党出身代議士アルビュフェクス侯爵が来、同じく哀訴嘆願の百万遍を尽《つく》して、最後に巨額の金や貴金属を取られた。
『きゃつは何かの秘密を握って、それを種に恐喝して金を捲き上げておるに相違ない。俺が幾日見張っていても仕様がない。何か局面を転換させずばなるまいが……と云って脅迫された連中に会ったところで、実を吐く気づかいは無い……』
 ルパンは思案に暮れて黙考《もっこう》していると、ビクトワールが電話室でドーブレクの電話を立聴《たちぎ》いていた。
 ビクトワールの話によると、ドーブレクは今夜八時半にある婦人と会見し、共に
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