ールはウンと唸って気絶してしまった。ルパンは絶大の恥辱でも受けた時の様に耳朶《みみたぶ》まで真赤《まっか》になるのを覚えた。ルパンは一語も発しなかった。やがてビクトワールは仕事に出て行った。彼はその日終日室内に籠もって沈思黙考した。そしてその夜もまた一睡も出来なかった。
かくて朝方の四時頃、家のどこかで異様の音のするのを聞いた。彼は俄破《がば》と跳ね起きて階段の上から覗いて見るとドーブレクが今しも階段を降りて庭の方へ行く様子。
一分間ばかりすると代議士は鉄門を開き、厚い毛皮の襟巻ですっかり顔を包んでいる一人の男を案内して、己れの書斎へ連れ込んだ。
こうした事もあろうかとルパンはかねてから相当の用意をしておいた。代議士の書斎と自分の居る室《しつ》とが家の裏手で、庭に面した方になっているので、彼は窓の処へ縄梯子を用意してあった。そして静かにそれを伝わって書斎の窓の上まで降りた。窓には窓帳《カーテン》が引いてあったけれども、ちょうど張った針金が少しゆるんで、上の方に弧形《こけい》の隙間が出来ていた。内部の話し声は聞えぬけれども、中の様子は逐一|覗《うかが》い見る事が出来る。
見ると男
前へ
次へ
全137ページ中51ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新青年編輯局 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング