……ホントに吃驚《びっくり》しました……』
 ビクトワールはベタリと椅子に腰をかけて、しばらくドキ付く心臓を静めていたが、ようやく吃《ども》りながら、
『知らない男が……知らない男が突然わたしの傍《そば》へ来て……八百屋の店で……手紙を渡されたんですの……』
『ハハハハハ。それくらいのことで何も驚くことはないじゃないか……附《つ》け文《ぶみ》だな、きっと』
『いいえ……「これを首領《かしら》の所へ持って行け」と云うんでしょう。「首領《かしら》ですって」と聞き返すと「そうよ。お前の室《へや》に逗留している紳士にさ」と云うんです』
『フーム!』ルパンはブルッとした。
『ドレお見せ』と云ってその手紙を受け取った。手紙の封筒は白紙で何も書いていない。が封を切ると二重封筒になっていて、それには、
[#3字下げ]ビクトワール方 アルセーヌ・ルパン殿
 と書いてあった。
『ウム。怪しいぞ』と呟《つぶや》きつつ彼《か》れは第二の封筒の封を切った。中には一枚の紙片《かみきれ》に楷書で筆太に、
[#3字下げ]「貴下のなしつつあるすべては皆無益にしてかつ危険なり……速《すみやか》に断念せられよ」
 ビクトワ
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