の》けると云う。ドーブレクの希望している、条件を全部そなえていた。それについ先頃まで議員ソールバ子爵の家に奉公していたというので、ドーブレクは早速電話で照会すると、同家の執事が出て来て、その婦人なら申分《もうしぶん》ない料理女だからと云う返事であったので即座にこの女を傭《やと》うことに定《き》めた。彼女が行李《こうり》などを持ち込むと、すぐに家の中の拭き掃除にかかり、食事の用意をした。
ドーブレクは夕食を済ますと、ブラリと出かけて行った。十一時頃女中のクレマンが寝てしまうと、料理女はそっと庭に降り、前後左右に深い用心をしつつ鉄門を半ば開いた。男がヌッと現れた。
『あなたですか?』
『そうだ、俺だよ、ルパンだよ』
彼女はルパンを、案内して三階にある自分の室《しつ》へ引き入れた。
『また何か始めましたね。いつまでそんな事を為《な》さるんです! そしていつでもわたしを手先にして、ちっともこの婆やを気楽にさせては下さらないのですね』
『まあそう云うなよ。ビクトワール、(「813」及び「黒衣の女」参照)上品で、銭金《ぜにかね》で動かされないものは他には無いからね、そんな時にはいつも婆やを思い
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