ない。
『ウヌッ、残念!』と彼は唸った。二時間以来胸の中《うち》で煮えくりかえる様になっていた憤怒の情は押え切れなくなってついに爆発した。『駑畜生《どちくしょう》ッ! どうしても俺には解らねえ』
不可解の問題が次ぎ次ぎに発生した。しかもそれが皆暗中模索の体為《ていたらく》、いくら考えてもまとまりが付かなかった。ジルベールが彼に水晶の栓を渡した。ジルベールが彼に手紙を送って寄越した。それが皆一時に消えて無くなった。
今までに幾多の悪戦苦闘、冒険に冒険を重ねてきたさすがの彼も、こんな怪奇な障害に出会《でくわ》した事は一度もなかった。
[#8字下げ][#中見出し]※[#始め二重括弧、1−2−54]三※[#終わり二重括弧、1−2−55]怪代議士[#中見出し終わり]
刑事等が家宅捜索をやった日の翌日、ドーブレク代議士が昼飯を外で食って帰って来ると、女中のクレマンが彼を引き止めて、大変いい料理女を見付けたと告げた。
数分後御目見えに出て来た料理女は信用の出来る立派な身元証明書を持《もっ》ていた。相当な年齢《とし》のなかなか元気ものらしく、家事の仕事は人手を借らずにどんな事でも遣って除《
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