せたものであるが、その一番左手《ゆんで》の板が変な具合に嵌《はま》っておる。近よってよくよく見ると、その板は二本の細かい鋲で上下を止めてあるばかりで完全な嵌め込みになっていない。彼は鋲を外してみた。果然、羽目板はがたりと外れた。
アシルはアッと驚愕の声を挙げた。しかしルパンは嘲笑う様に、
『え、それがどうした? やっぱり解らんじゃあないか? この穴は横が七八寸で縦が一尺五寸ばかりしかない。とても普通の女がこれだけの間から通れるものじゃあない。いくら痩せていても高々|十歳《とう》までの子供がやっと通れるくらいじゃあないか!』
ルパンはやや暫くの間沈思していたが、突然、戸外《そと》へ飛びだして、急いで貸自動車《タクシー》に飛び乗った。
『マチニヨン街へ……大急ぎだ……』
以前水晶の栓を盗まれた別荘の近くまで来ると彼はヒラリと自動車から降り、階段を駈け上《あが》って寝室の入口の扉《ドア》の羽目板を調べた。果然、案の定、そこも羽目板の一枚に細工がしてあった。シャートーブリヤン街の家同様に羽目板をはずすと肩まで入り得るくらいの穴があいたが、しかし、そこから上が錠にまではやはり手が届きそうに
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