ている。顎骨の角張って突出しておる所はいかにも精力絶倫らしい相貌で、手はすこぶる大きく、両脚は曲り歩くたびに脊《せ》を曲げて妙に腰を振る形態《かっこう》はちょうどゴリラの歩き振りを思わせる。とにかく獰猛な顔、頑丈な体格、相当蛮力を有《も》った男に違いない。彼は机の前に腰をかけて、懐中《ポケット》からパイプを取り出し机上にあったマリーランド煙草の箱の封を切ってそれを詰めて燻《ふ》かしながら、何やら手紙を書き初めた。
しばらくすると彼は何を思ったかふと書く手を止めて机の一点を凝視しながらじっと思案にふけっていた。と見る、ズイと手を延ばして机上の切手入の小箱を取り上げて調べていたが、続いてプラスビイユが手を触れた品物に目をそそぎ、一々覗き込んでは、手に取ってみて小首を傾《かし》げていたが、彼自身のみに解る何等かの証跡を発見したらしく下女を呼ぶ電気|釦《ぼたん》を押した。まもなく門番の女中が入って来た。
『やって来たろう、え?』
女中が狼狽《どきまぎ》しておると、
『オイ、クレマンス。この切手箱に手を触れたのはお前じゃあるまいね?』
『いいえ、どう致しまして』
『そうか。俺はね、この箱へ細
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