ジルベールとボーシュレーの二人と通信せんかと苦心した。警察当局でもルパンの関係している以上、事重大と思惟しセーヌ・エ・オワーズ県地方裁判所の所管から事件一切を巴里《パリー》裁判所へ移し、ルパンに関する一般的証拠の蒐集に取りかかった。随《したが》ってボーシュレーもジルベールもサンテ監獄に収監されることとなった。サンテ監獄にあっては特に警視総監の注意によって囚人とルパンとの間に何等かの方法で通信の行われる事を恐れて、最新かつ厳重な警戒をする事にした。ジルベールとボーシュレーとの身辺には昼夜の別なく巡査と看守とが厳戒して一分時でも目を放たなかった。
 当時ルパンは、まだ刑事課長の椅子を占めていなかった(「813」及「黒衣の女」参照)ので、随って裁判所内に適宜の計画を実行する力もなく、二週間ばかりの苦心もことごとく水泡に帰してしまった。彼の心は憤怒に燃え、不安に襲われて来た。「事件の最も困難とする所は終局にあらずして、出発である」とは彼がしばしば云う言葉であった。『だとすると、どこから手を付けたらよかろうか。果していかなる道をとって進もうか?』
 ルパンの考えはドーブレク代議士へ向けられて行っ
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