ールが彼にそむいて、警官をその隠家へ送ったと想像するか? しからばなぜ当のルパンを捕縛せずに、水晶の栓ばかりを奪い去ったか。
しかしそれよりなおいっそう奇怪な問題がある。よしんば寝室の扉《ドア》を開けたとしても――扉《ドア》を開けたことを認めねばならないが、しかも扉《ドア》には何等これを立証すべき形跡がない。しからばいかなる方法をもって寝室内へ忍び込む事が出来ただろうか? 毎夜、彼は扉《ドア》に鍵をかけて錠を下す事が永年《ながねん》の習慣になって一夜でも忘れた事が無い。しかるに、鍵にも場にも何等手を触れた形跡が無いにもかかわらず、水晶の栓は確かに紛失しておるではないか。のみならずいかに熟睡していても暗中針の倒れる音にも目を覚ますルパンが、昨夜ばかりはカタと云う音すら聞かなかったのだ!
彼はこんな謎は事件の推移に従って自然と苦もなく明瞭になって来ると高を括って深くも頭を悩まそうとしなかった。しかし考えるといまいましくもあれば、また不安でもあるので、直ちにマチニョン街の隠家《かくれが》を畳んでしまって、こんな縁喜でもない所へまたと足をふみ入れまいと決心した。
彼は差し当っていかにして
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