した。
『ああ、嫌な夢を見た』とルパンは一晩中魘されて、全身に汗をビッショリ掻きながら目が覚めた。『ああ嫌だ嫌だ。何んだか御幣が担ぎたくなる。気の小さな奴だったら、とても堪《たま》らないね。……だが、まあいいや、ジルベールだって、ボーシュレーだってこのルパンが手を貸せば、どうにでもなるんだ。どりゃ縁起直しに例の水晶の栓でも調べてみよう』
 彼はムックリ起き上って暖炉《ストーブ》の上へ手をかけた。と同時に呀《あ》ッ! と叫んだ。不思議、水晶の栓は跡形もなく消えて無くなった。

[#8字下げ][#中見出し]※[#始め二重括弧、1−2−54]二※[#終わり二重括弧、1−2−55]九から八引く[#中見出し終わり]

 昨夜《ゆうべ》の品物紛失事件で彼自身が被害者の立場になったこの窃盗は、妙にルパンの心持を苛々させた。今彼の心中には二ツの問題が浮んだが、いずれも難解のものであった。第一に忍び入った神秘の曲者は何者であるか? マチニョン街の隠家《かくれが》を知っておるものは、彼のために特殊の秘書を勤めていたジルベールの外《ほか》には無いはずだ。しかるにジルベールは現在獄裡に繋がれておる。万一ジルベ
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