してみて吃驚《びっくり》した。硝子《がらす》の水入れに付いてる様な水晶の栓で、打ち見たところ栓と云うより外《ほか》に何の変哲もない代物だ。強《しい》て特徴と云えば栓の頭が多面体《ためんてい》に刻まれて、中ほどくらいまで金色《こんじき》に色を付けてあるくらいのもので、いくら見ても珍重するほどのものとは思われなかった。
『ボーシュレーとジルベールとがあれほどまで執念深く目を付けたのがこんな硝子の栓なのか? この栓一箇のために書記を殺した、これのために二人して争奪をした。これのために時機を失った。これのために牢獄の危険を冒し……裁判も忘れ……断頭台も恐れなかったのか……可怪《おか》しい、どうも不思議だ……』
 不思議の謎を解きたいのは山々だが余りに疲労してこれ以上考えるに堪《た》えないので彼は問題の栓を暖炉《ストーブ》の上に置いて、そのまま寝床へ入った。
 彼は苦しい悪夢に魘《うな》された。いかに藻掻いても、目に見えぬ糸で縛り上げられたごとく、一寸も動く事が出来ず、目の前には恐ろしい幻影、黒布《こくふ》に覆われた物凄い棺桶、湯棺に代る最後の化粧、悲惨な断頭台の断末魔の光景がそれからそれと展開
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