様だ……がしかしそこには誰も居ないはずだ。書記の血に染《にじ》んだ死骸より外《ほか》には何人《なんぴと》も居ようはずが無い。
怪しの声は再び聞えて来た。ある時は鋭く、ある時は息の詰る様に、唸る様に、吠える様に、悲しげに、恐ろしげに、意味も解らぬ片言がどこからともなく聞えて来る。
さすが豪胆のルパンも全身冷水を浴びた様に慄《ぞっ》とした。この物凄い、無気味な墓場の底から出て来る悲鳴は、果して何んだろうか?
彼は書記の死骸を覗き込んだ。声はハタと杜絶《とだ》えたがまた聞えて来る。
『もっと灯火《あかり》をこちへ』とジルベールに云った。
彼は云いしれぬ悪寒がする様なのを止《と》める事が出来なかった。が怪しい声は確かにここから出て来ると思った。ジルベールが点けた灯火《あかり》でよく見ると、声は確かに死骸から出るのだが、その死骸は氷の様に冷たく、硬直して、血に染った唇は微動だにしていない。
『首《か》、首領《かしら》、どうしたんでしょう』とジルベールは歯の根も合わず慄《ふる》えておる。
ルパンは突然プッと噴飯《ふきだ》した。そして死骸を攫《つか》んでグイと傍《そば》へ押し転がした。
『
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