……だから泡食って突いたんです』
『だが先刻《さっき》の短銃《ピストル》の音は?』
『ありゃ、レオナールです……短銃《ピストル》を握っていたんで……死ぬ前に一発撃ったんです……』
『戸棚の鍵は?』
『ボーシュレーが奪《と》りました……』
『戸棚を開けたか』
『へえ』
『発見《みつ》かったか?』
『へえ』
『で、貴様がボーシュレー[#「ボーシュレー」は底本では「ボツシユレー」]からそいつを取り返したんだな? ……匣か? いやそれにしちゃあ小さすぎる……何んだ品物ァ……云えッ……』
 黙ってしまった様子にジルベールが白状しないと早くも見て取ったルパンはジロリと物凄い眼を向けて、
『フン。話さなきあよいが、おれはルパンだぞ。きっと白状させてやるから……だが今は愚図々々しちゃあおられねぇぞ。……まあ手を借せ……ボーシュレーを端艇《ボート》まで運んでやらにゃあならんから……』
 彼は再び食堂に戻った。そしてジルベールがボーシュレーの身体に手をかけようとした時、ルパンが、
『シッ! 聞けッ!』
 と云って二人は不安らしい眼を見交した。事務室の方から声が洩れて来る……低い低い声で、よほど遠方から来る
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