ンは書記の身体《からだ》を調べたが呟く様に『死んでおる!』と大息した。
『エッ、ほんとうですか?……ほんとうですか?……』
 とジルベールは声を震わせた。
『正《まさ》しく死んでおる』
 ジルベールはオロオロ声になって、
『ボーシュレーです……咽喉《のど》を一突にしたんです……』
 怒心頭に発し、顔色も真蒼《まっさお》になったルパンはいきなりジルベールの肩を掴んで、
『ボーシュレーの仕業……して貴様も……こ、この間抜ッ! 貴様は傍《そば》に居て、なななぜ止めないんだ。……血! 血! 見ろ、この血を! 俺は血は大嫌いだ、人を殺さんのが俺の主義だって事を知っとるじゃないか。ああ、飛んでもない事をしやあがった。人を殺せば己《おの》れも殺される。……これほどの大事《だいじ》が解らんか、断頭台が目に入らんか……馬鹿ッ!』
 傍《そば》の死骸を見ると彼の怒りはますます激しくなって、手荒くボーシュレーを小突き廻しながら、
『なぜだ?……ボーシュレー、なぜ人殺なんぞしたんだ?』
『あいつが戸棚の鍵を取ろうと書記の懐中《ポケット》へ手を突き込もうとするといつのまにか縛ってあった腕の縄を解いていたんです。
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