ョン・ホワードから、ドーブレク代議士に、見本通りに製作した水晶の水差しを送ったもので、「水晶」と云う文字に気が付きましたから、私は早速ストーアブリッジに参りまして、その店の副支配人を買収して聞き正しました所によりますと、代議士の註文通り、「水晶の内部を空洞となし、その空洞なる事を何人といえども看破し得ざる様に」製作したものだそうでございます』
『フーム。なるほど、間違いのない調査ですな。けれども、私の思うには、金の線の下と云うと……隠匿場所は実に微小なものですね』
『微小ですが、それで十分なのです』
『どうして知りましたか』
『プラスビイユから』
『じゃあんたは知っていたんですな?』
『ええ、その当時から、その前までは、夫《たく》も私《わたくし》も、ある事件のためにあの方とは一切関係を絶っておりました。ブラスビイユはずいぶん卑劣な性《たち》で、それでいて浅薄な野心家でして、両海運河事件には実に醜劣な仕事をしていたのでございます。収賄ですか? きっとしています。しかしそんな事を関《かま》ってはいられませんでした。私は助力者が欲しかったのです。当時あの男は警視庁の官房主事に任ぜられましたので、私は遂にあの男を選ぶ事に致しました』
『彼れは御子息のジルベールの行動を知っていましたか?』とルパンが途中で口を挟んだ。
『いいえ。あの方の位置が位置ですから、私も相当用心致しましてこれまで世間の人々に話した通り、ジルベールは家出をして死んだとだけ申しておきました。ただ、夫が自殺をした原因と、私がその復讐を決心した次第を打ち開けまして、ただ今申上げた通り、水晶の栓の秘密を発見したことを話しますと、ブラスビイユも非常に喜びまして、種々《いろいろ》相談致しましたが、結局あの方の話に依りますと、その連判状に用いた紙は非常に薄い特製の用箋で、畳み込めば、非常に微小なものとなって、どんな小さい穴へでも隠せるとの事でした。こう解りますと大変張合も出来ますし、また私にしろ、あの方にしろドーブレクとは仇敵の間ですから、極秘の裡に打合をしつつ、めいめいそれぞれの活動を始めました。第一に女中のクレマンスを味方に引き入れました。え? ええただ今ではプラスビイユの方へだいぶ力を尽しておりますが、当初は私どものために計《はから》ってくれました。ちょうどこの時分、今から十ヶ月ほど前ですが、ジルベールが私を尋ね
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