所にあらずとしてある支那で、この制度が理想通りに行はるゝ筈はない。體面を重んずる人士ならば、縱令責るに義務を以てし、科するに罰金を以てしても、寧ろ甘じて懲罰を受け、陪審員たるを承諾することなかるべしと論じて居る。張之洞の駁議は五十餘條に渉つて居るが、要するに法典は自國の民情風俗習慣歴史を參酌して實際に合する樣に編纂せねばならぬ。或論者は法典さへ東西洋諸國の通りのものが出來たら、治外法權は一朝にして撤せらるゝと思ふけれども、それは間違つた意見で治外法權の撤せらるゝと否とは一に國家兵力の強弱、戰守の成效如何の問題によるといつて居る。こんな議論は張之洞に限つた譯ではない。其他督撫將軍の多くからも意見書が出て居るが、要するに新法典中の多くの箇條は支那從來の民情習慣に違背して居るから、遽かに行ひ難いといひ、殊に父子兄弟の産を分つことを認めて居ることは、家族主義に本づいた支那の道徳と相容るゝ能はざる旨を論じて居る。
 それから新刑法の編纂についても、同樣の議論が出た。修訂法律大臣沈家本等の上奏文には「是編修訂大旨。折[#二]衷各國大同之良規[#一]。兼採[#二]近世最新之學説[#一]。而仍不[#レ
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