て訴訟を起させ、これに藉つて金錢を貪ぼり社會から蛇蝎の如く嫌はれて居る。東西文明諸國の律師は皆學校で專門の智識を養つたもので、又一定の試驗をして合格者より採用するから、何等の弊害はないけれど、支那現在の程度では、學問あり品格ある律師を得ることは到底不可能である。結局この制度を實行せんとせば、唯從來訟師、訟棍などいつて社會の擯斥をうけて居た無頼の劣紳に、種々の惡事を働く機會を與ふるに過ぎず、又兩造に貧者と富者とあつたら、富者は律師に依頼するを得れども、貧者は親ら公堂に到り口舌を以て之と爭はざるべからず、貧者は直にして敗れ、富者曲にして却て勝を得るに至らん。又新法典には陪審制度を採つて居るが、この制度は英吉利に※[#「日+方」、第3水準1−85−13]まつたもので、英人は公徳を重んずる國民であるから、この制度も益あつて損ないかも知れぬが、法徳諸國のこれに※[#「にんべん+方」、第3水準1−14−10]ふものは、已に流弊の多きに苦しむ次第で、日本さへまだ此の制度を用ゐるに至らぬ。況んや前に述ぶる通り、西洋人の如く法律思想が發達して居らず、訴訟を以て罪惡の如く考へ、公堂を以て紳士の妄に入るべき
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