。すると老女は二足三足、前へ進んで仔細に眼をとおして独言《ひとりごと》を言った。
「これは根が無いから、ここで咲いたものではありません――こんなところへ誰がきましょうか? 子供は遊びに来ることが出来ません。親戚も本家も来るはずはありません――これはまた、何としたことでしょうか」
老女はしばらく考えていたが、たちまち涙を流して大声上げて言った。
「瑜《ゆ》ちゃん、あいつ等はお前に皆《みな》罪をなすりつけました。お前はさぞ残念だろう。わたしは悲しくて悲しくて堪りません。きょうこそここで霊験をわたしに見せてくれたんだね」
老女はあたりを見廻すと、一羽の鴉《からす》が枯木《かれぎ》の枝に止まっていた。そこでまた喋り始めた。
「わたしは承知しております。――瑜ちゃんや、可憐《かわい》そうにお前はあいつ等の陥穽《かんせい》に掛ったのだ。天道様《てんとうさま》が御承知です、あいつ等にもいずれきっと報いが来ます。お前は静かに冥《ねむ》るがいい。――お前は果《はた》して、しんじつ果《はた》してここにいるならば、わたしの今の話を聴取ることが出来るだろう――今ちょっとあの鴉をお前の墓の上へ飛ばせて御覧」
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