も発狂しそうなので、華大媽は見かねて身を起し、小路《こみち》を跨いで老女にささやいた。
 「老※[#「女+乃」、第4水準2−5−41]※[#「女+乃」、第4水準2−5−41]《ラオナイナイ》、そんなに心を痛めないでわたしと一緒にお帰りなさい」
 老女はうなずいたが、眼はやッぱり上ずっていた。そうしてぶつぶつ何か言った。
「あれ御覧なさい。これはどういうわけでしょうかね」
 華大媽は老女のゆびさした方に眼を向けて前の墓を見ると、墓の草はまだ生え揃わないで黄いろい土がところ禿げしてはなはだ醜いものであるが、もう一度、上の方を見ると思わず喫驚《びっくり》した。――紅白の花がハッキリと輪形《わがた》になって墓の上の丸い頂きをかこんでいる。
 二人とも、もういい年配で眼はちらついているが、この紅白の花だけはかえってなかなかハッキリ見えた。花はそんなにも多くもなくまた活気もないが、丸々と一つの輪をなして、いかにも綺麗にキチンとしている。華大媽は彼女の倅の墓と他人の墓をせわしなく見較べて、倅の方には青白い小花がポツポツ咲いていたので、心の中では何か物足りなく感じたが、そのわけを突き止めたくはなかった
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