そよ風はもう歇《や》んだ。枯草《かれくさ》はついついと立っている。銅線のようなものもある。一本が顫え声を出すと、空気の中に顫えて行ってだんだん細くなる。細くなって消え失せると、あたりが死んだように静かになる。二人は枯草《かれくさ》の中に立って仰向いて鴉を見ると、鴉は切立《きった》ての樹の枝に頭を縮めて鉄の鋳物《いもの》のように立っている。
 だいぶ時間がたった。お墓参りの人がだんだん増して来た。老人も子供も墳《つか》の間《あいだ》に出没した。
 華大媽は何か知らん、重荷を卸したようになって歩き出そうとした。そうして老女に勧めて
「わたしどもはもう帰りましょうよ」
 老女は溜息|吐《つ》いて不承々々《ふしょうぶしょう》に供物《くもつ》を片づけ、しばらくためらっていたが、遂にぶらぶら歩き出した。
「これはまた、何としたことでしょうか」
 口の中でつぶやいた。二人は歩いて二三十歩も行かぬうちにたちまち後ろの方で
「かあ」
 と一声《いっせい》叫んだ。
 二人はぞっとして振返って見ると、鴉は二つの翅《はね》をひろげ、ちょっと身を落して、すぐにまた、遠方の空に向って箭《や》のように飛び去った
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