んで来た。坐って飯を食っていた人は皆立上って、箸を自分の飯碗に差向け「七旦那、わたしどもと一緒にここでお支度をなさいませ」
 七爺は頻りにうなずいて「どうぞお構いなく」といいながら、ずっと七斤家の食卓の側へ言った。七斤達はのべつにお愛想をいうと、七爺は微笑を含んで「どうぞお構いなく」を繰返しながら、彼等のお菜をこまごまと研究し始めた。「いい匂いの干葉だね。――風の吹くたんびにいい薫りがするよ」趙七爺は七斤の後ろに立って、七斤ねえさんを向う側に眺めてこんな事を言った。
「天子様がおかくれになったのですか」と七斤はきいた。
 七斤ねえさんは七爺の顔を見ると、せい一杯にお世辞笑いをして「天子様がお匿《かく》れになったら、いずれ大赦があるのでございましょうね」
「大赦ですか――大赦はいずれそのうち、どうしてもあるはずです」と七爺のそう言ってしまうとふと急に語気を荒くした。
「だがお前の家《うち》の七斤の辮子はどうしたのだ。辮子は? これはどうしても大事なことだ。お前達は知っているだろうが長毛《ざんもう》(長髪賊)の時、髪を留《とど》める者は頭を留めず、頭を留めるものは髪を留めず」
 七斤と彼の
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