》などということまで知っている。革命以後、辮子を頭のてッぺんに巻き込んで道士のような風体をしていたが「もし趙子龍《ちょうしりゅう》が世に在らば、天下はこれほどまでに乱れはしない」といつも歎息していた。七斤ねえさんの眼力は確かだ。きょうの趙七爺は以前のような道士ではない。つるつるとして頭の皮の頂上《てっぺん》に、真黒な髪の毛があるのを早くも認めた。皇帝が崩御して、辮子がぜひとも必要で、七斤の身の上に非常な危険のある事を彼女は察した。というのは趙七爺のこのリンネルの長衫は、ふだん無暗に著るものでない。三年このかた彼がこの著物《きもの》に手を通したのは只の二度切りで、一度は彼の大きらいな疱瘡《あばた》の阿四《あし》が病気した時、もう一度は彼の店を叩き壊した魯太爺《ろだんな》が死んだ時だ。そうして今がちょうど三度目だ。きっとこれは彼自身に喜びがあって、彼の仇の家に殃《うれ》いごとがあるのだ。
七斤ねえさんは覚えている。二年前に七斤は酔払って一度、趙七爺を「賤胎《めかけばら》」と罵ったことがある。そこで今たちどころに七斤の危険を直覚して、胸の中がドキンドキンと跳ね上った。
趙七爺はずんずん進
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