言ったことがある。また一度、偶然ある好からぬ者に対して議論をしたことがある。その時の話に、彼は殺されるのが当然で、まさにその肉を食《くら》いその皮に寝《い》ぬべしと言った。当時わたしはまだ小さかったが、しばらくの間胸がドキドキしていた。先日|狼村《ろうそん》の小作人が来て、肝を食べた話をすると、彼は格別驚きもせずに絶えず首を揺り動《うご》していた。そら見たことか、おお根が残酷だ。「子《こ》を易《か》へて而《しか》して食《くら》ふ」がよいことなら、どんなものでも皆|易《か》えられる。どんな人でも皆食い得られる。わたしは彼の講義を迂濶に聞いていたが、今あの時のことを考えてみると、彼の口端には人間の脂がついていて、腹の中には人を食いたいと思う心がハチ切れるばかりだ。

        六

 真黒けのけで、昼かしらん夜かしらん。趙家の犬が哭き出しやがる。
 獅子に似た兇心、兎の怯懦《きょうだ》、狐狸《こり》の狡猾……

        七

 わたしは彼等の手段を悟った。手取り早く殺してしまうことは、いやでもあるし、またやろうともしないのだ。罪祟りを恐れているから、衆《みな》の者が連絡を取っ
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