て網を張り詰め、わたしに自害を迫っているのだ。四五日このかた往来の男女の様子を見ても、アニキの行動を見ても八九分通りは悟られて来た。一番都合のいいのは、帯を解いて梁《はり》に掛け、自分で縊《くび》れて死ねば彼等に殺人の罪名がないわけだ。そうすれば自然願いが通って皆大喜びで鼠泣きするだろう。しかし驚き恐れ憂い悲しんで死んでも、いくらか痩せるくらいでまんざら役に立たないことはない。
 彼等は死肉を食べつつある!――何かの本に書いてあったことを想い出したが、「海乙那《かいおつな》」という一種の代物がある。眼光《めつき》と様子がとても醜い。いつも死肉を食って、どんな大きな骨でもパリパリと咬み砕き、腹の中に嚥《の》み下してしまう。想い出しても恐ろしいものだが、この「海乙那」は狼の親類で、狼は犬の本家である。先日趙家の犬めが幾度も乃公を見たが、さてこそ彼も一味徒党で、もう接洽《ひきあい》もすんでいるのだろう。あの親爺がいくら地面を眺めたって、乃公を胡魔化すことが出来るもんか。中にも気の毒なのは乃公のアニキだ。彼だって人間だ。恐ろしい事とも思わずに何ゆえ仲間を集めて乃公を食うのだろう。やっぱり永年《
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