何か言おうとした時、顔じゅう瘤《こぶ》だらけの男がいきなり入って来た。真黒《まっくろ》の木綿著物――胸の釦を脱《はず》して幅広の黒帯をだらしなく腰のまわりに括《くく》りつけ、入口へ来るとすぐに老栓に向ってどなった。
「食べたかね。好くなったかね。老栓、お前は運気がいい」
 老栓は片ッ方の手を薬鑵に掛け、片ッぽの手を恭々《うやうや》しく前に垂れて聴いていた。華大媽もまた眼のふちを黒くしていたが、この時にこにこして茶碗と茶の葉を持って来て、茶碗の中に橄欖《かんらん》の実を撮み込んだ。老栓はすぐにその中に湯をさした。
「あの包《パオ》は上等だ、ほかのものとは違う。ねえそうだろう。熱いうちに持って来て、熱いうちに食べたからな」
 と瘤の男は大きな声を出した。
「本当にねえ、康《こう》おじさんのお蔭で旨く行きましたよ」
 華大媽はしんから嬉しそうにお礼を述べた。
「いい包《パオ》だ。全くいい包《パオ》だ。ああいう熱い奴を食べれば、ああいう血饅頭はどんな癆症《ろうしょう》にもきく」
 華大媽は「癆症」といわれて少し顔色を変え、いくらか不快であるらしかったが、すぐにまた笑い出した。そうとは知らず康お
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