誰だって彼に抵抗することは出来ない」
 彼は両手をひろげて空拳《こぶし》を振り上げ、さながら無形の蛇矛を握っているような体裁で、八一ねえさんに向って幾歩か突進した。「お前は彼に抵抗することが出来るか」
 八一ねえさんは腹立ちのあまり子供を抱えて顫《ふる》えていると、顔じゅう脂汗の趙七爺がたちまち眼を瞠《みは》って突進して来たのでこわくなって、言いたいことも言わずにすたすた歩き出した。
 趙七爺もすぐその跡に跟《つ》いて歩いた。衆人は八一ねえさんの要らぬ差出口を咎めながら通り路をあけた。剪り去った辮子を延ばし始めた者が、幾人か交じっていたが、早くも人中に躱《かく》れて彼の目を避けた。趙七爺はそんなものには目も呉れず人中を通り過ぎて、たちまち烏臼木の蔭に入り、「お前は抵抗することが出来るか」といいながら独木橋《まるきばし》の上へ出て悠々と立去った。
 村人はぼんやり突立って腹の中でじっと考えてみると、乃公達は確かに趙翼徳に対して抵抗は出来ない。そうすると七斤の命は確かに無いものだ。七斤は既に掟を犯した。想い出すと彼はいつも人に対して城内の新聞《ニュウス》を語る時、長煙管を銜えて豪慢不遜《ご
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