今こそそんな事をいうが、あの時は……」
「なんだ。活き腐れめ、咎人め」
 見物人の中で、八一ねえさんは心掛けのごくいい人であった。彼女は二歳の忘れがたみを抱いて、七斤ねえさんの側で騒動の成行きを見ていたが、この時心配のあまり慌てて口をきいた。「七斤ねえさん、もういいよ。人は神様でないから、誰だって未来のことは分りません。あの時お前は何とも言わないのは、辮子が無くとも好かったんじゃないか。ましてお役所の旦那はいまだに御布《おふ》れを出さないのを見ると――」
 七斤ねえさんはしまいまで聴かぬうちに、もうふたつの耳朶を真赤にして箸を持って振向き、それを八一ねえさんの鼻先きへ差しつけ「おやおや、これはまた妙なことを聞くもんだね、八一ねえさん、わたしはどう考えてみても、こんな出鱈目を言われる覚えはありません。あの時わたしは三日の間泣きとおしてこの六斤の餓鬼までも連れ泣きしたのは、誰も皆知っていることです」
 その時六斤は大きなお碗の中の飯を食い完って、空碗を持上げ、手を伸ばして「お代り」と言った。七斤ねえさんはいらいらしていたので、ちょうど六斤の蝶々とんぼの真上にあった箸をあげて、急に下したから
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