ですが、幸いにSと猫と鼻突き合せているから、まだ何事も仕出《しで》かさないのでしょう。
子供等は時々彼等を捉《つか》まえて玩弄《おもちゃ》にする。彼等はお愛想《あいそ》よく、耳を立て鼻を動かし小さな手の輪組の中におとなしく立っているが、少しでも、隙があれば逃げ出そうとする。彼等の夜の伏所《ふしど》は小さな木箱である。中に藁を敷き、裏窓の軒下に置いてある。
このような日を幾月も送った後、彼等はたちまち自分で土を掘り始めた。掘り出しかたが非常に早く、前脚で掻くと後脚で蹶《け》る。半日経たぬうちに一つの深い洞《ほら》を掘り上げた。皆不思議に思ってよく調べてみると、一匹の腹が他の一匹のそれよりも肥えていた。彼等は二日目に枯草と木の葉を銜《くわ》えて洞内に入り半日あまり急がしかった。
衆《みな》は大《おおい》に興じきっと小兎が出来るのだろうと言った。三太太は子供等に対して戒厳令を下し、これから決して捉まえてはなりませんぞという。わたしの母も彼等の家族の繁栄を喜び、生れて乳離れがしたら、二匹別けて貰ってこちらの窓下で飼ってみようと言った。
彼等はそれから自分で造った洞府《あなぐら》の中に住んで時々出て来ては何か食べていたが、後ではパッタリ姿を見せなくなった。前もって食糧を蔵《しま》い込んであるのかしらんがとにかく食いに出て来ない。十日ばかり過ぎて三太太はわたしに言った。あの二匹はまた出て来ましたが、おおかた生れるとすぐに小兎が死んだんでしょう、雌の方は乳が非常に張っていて、子供を哺育した模様は更に見えません。彼女は腹立たしげに語ったが、どうも仕方がない。
ある日、日ざしが非常に暖かく風もなく木の葉はすべて動かなかったが、後ろの方で頻りにどよめく笑声を聞いた。声を尋ねて目をやると、大勢の人が三太太の裏窓に靠《もた》れて、庭内を跳ね廻る一匹の小兎を見ていた。それは彼の父母が買われて来た時よりももっと小さかったが、彼は後脚を弾いて躍り上ることをもう知っていた。子供等は先きを争って私に告げた。もう一つ小さいのが、洞の口から首を出したんですが、すぐに引込んでしまいました。あれは弟でしょう。
その小さいのはちょっと草の葉を択《えら》んで食ったが、親兎は許さぬらしく、往々口を突き出して横合いから奪い取り、自分も決して食わない。子供等はどっと笑い出した。小さいのは喫驚《びっくり》し
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