言葉さ。これさえあれば皆解る』と答えた。わたしはこの記事を見た当座、腹が立って三日ばかり飯も食えなかった。ところがわたしは知らず知らず自分でそれをやっていたのだ。しかもそれが彼等に対して一番よくわかるのだ。
 宣統《せんとう》初年わたしは当地で某中学の校長を勤めていたが、同僚には嫌われ、官僚には警戒され、終日|氷倉《こおりぐら》の中に坐っているような、刑場の側《そば》に立っているような憂鬱さを感じたが、実は何をしたわけでもない、ただ一本の辮子がなかったからだ。
 ある日のこと四五人の学生が突然わたしの部屋に入って来た。
『先生、わたし達は辮子を剪ろうと思いますが[#「思いますが」は底本では「思いまがす」]』
『いけません』
『辮子がある方が好うございますか、無い方が好うございますか』
『無い方がいい』
『ではなぜいけないとおっしゃるのですか』
『する事が出来ないのです。お前達はまだ剪らない方がいい。待っていなさい』
 彼等は何も言わず口を尖らせて出て行った。そうして結局剪り取ってしまった。
 おや、まずいまずい、人声がガヤガヤした。わたしはそれでも知らん振りして、彼等のイガ栗頭と辮子頭
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