いと思います。これじゃしようがありませんからね」
と、彼女は彼の顔色を窺った。
「乃公《おれ》は行《ゆ》かない。これは官俸だよ。賞与ではないぞ。定例に依って会計課から送って来るのが当りまえだ」
「だけど、送って来なかったらどうしましょうね。おお昨日いうのを忘れましたが、子供の月謝をたびたび催促されて、もしこの上払わないと学校で……」
「馬鹿《ばか》言え、大きな大人を教育してさえ金が取れんのに、子供に少しばかり本を読ませて金が要るのか」
彼はもう理窟も何も放《ほ》ったらかしで彼女を校長がわりにして鬱憤を晴らすつもりでいるらしいから手がつけられない。で、彼女はなんにも言わない。
二人は黙々として昼飯を食った。彼は一しきり考え込んでさも悩ましげに出て行った。
旧例に依れば近年は節期や大晦日の一日前にはいつも彼は夜中の十二時頃、ようやく家に到著して歩きながら懐中を探り大声出して
「おい、取って来たよ」
と、ごちゃ交ぜにした中国交通銀行の紙幣を彼女に渡し、顔の上にはいささか得意の色があった。ところが五月四日のきょうというきょうは先例を破って彼は七時前に帰って来た。
方太太は大層心配し
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