にくくなって来た。だから追い使いのボーイや出入の商人にはいうまでもなく、彼の奥さん、方太太《ファンタイタイ》ですらも彼に対してだんだん敬意を欠くようになって来た。彼女は近頃調子を合せず、いつも一人|極《ぎ》めの意見を持出し、押しの強い仕打ちがあるのを見てもよくわかる。五月四日の午前に迫って彼は役所から帰って来ると、彼女は一攫みの勘定書《かんじょうがき》を彼の鼻先に突きつけた。これは今までにないことである。
「すっかり〆め上げると百八十円。この払いが出来ますか」
 彼女は彼に目も呉《く》れずに言った。
「フン、乃公《おれ》はあすから官吏はやめだ。金の引換券は受取ったが、給料支払要求大会の代表者は金を握り締め、初めは同じ行動を取らない者にはやらないと言ったが、あとでは、また、彼等の跡へ跟《つ》いて行ってじかに受取れと言った。彼等はきょうお金を握ると急に閻魔面になった。乃公《おれ》は実際見るのもいやだ。金は要らない、役人もやめだ。これほどひどい屈辱はない」
 方太太はこの稀れに見るの公憤を見ていささか愕然としたが、すぐにまた落ちついて
「わたしはやはり御自分で取りに被入《いらっしゃ》る方がい
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