て、彼は辞職したかもしれないと、そっと顔色を覗いて見たが、別段悲観した様子も見えない。
「どうしてこんなに早かったの」
彼女は彼の顔色を見定めて言った。
「払出しが十分でないから受取ることが出来ない。銀行はとっくに門を閉めてしまったから、八日まで待つより外はない」
「自分で被入《いらっしゃ》ったの」
彼女は恐る恐るきいた。
「自分で行くことは取消されてやっぱり会計課から分送することになった。しかしきょうはもう銀行が閉まったから、三日休んで八日の午後まで待たなければならない」
彼は席に腰を卸し地面を見詰めながら一口お茶をのんでようやく口をひらいた。
「いい按排に役所の方ではまだ問題が起らないから、大概八日になったらお金が入るだろう……あんまり懇意にしない親戚や友達のところへ金を借りにゆくのは、実につらい話だ。わたしは午後|厚釜《あつかま》しく金永生《きんえいせい》を訪ねてしばらく話をした、彼はわたしが給金を請求せぬことや、直接受領せぬことを非常な清高な行いとして賞讃したが、わたしが五十円融通してくれと申込むと、たちまち彼の口の中へ一攫みの塩を押込んだようにおおよそ彼の顔じゅうで皺の
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