出来るところは皆皺が出来た。近頃は家賃が集まらないし、商売の方では元を食い込むし、これでもなかなか困っているのですよ。同僚の前へ行って取るべきものを取るのは当然ですから、そういうことにおしなさい、とすぐにわたしを弾き出した」
「節句の真際になって金を借りに行ったって、誰が貸すもんですか」
 方太太は当りまえのような顔付で少しも口惜《くや》しがらない。
 方玄綽は頭をさげて、これは無理もないことだ。わたしと金永生は元から深い識合《しりあ》いではなかった。彼は続いて去年の暮れのことを思い出した。そのとき一人の同郷生が十円借りに来た。彼は明かにお役所の判のついてある手形を持っていたが、その人が金を返してくれないと困ると思って、はなはだ六《む》ツかしい面《かお》を作り、役所の方からはまだ月給が下らない、学校の方も駄目《だめ》で、実に「愛してはいるが助けることが出来ない」と言って彼を空手で追い帰した。その時自分はどんな顔をしていたか。もちろん自分で見ることは出来ないが、何しろすこぶる息がつまり脣《くちびる》が顫《ふる》えて、頭を動かしていたに違いない。
 それはそうと彼は、ふと何かいい想いつきを
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