したように、ボーイを呼んで命令を発した。
「街へ行って『蓮花白《レンホワパイ》』を一瓶借りて来い」
 店屋は明日の払いを当てにしているから大抵貸さないことはあるまい。もし貸さなければ彼等は当然の罰を受けて、明日は一文も貰えないのだ。
 蓮花白《レンホワパイ》は首尾よく手に入った。彼は二杯のむと青白い顔が真赤になった。飯を食ってしまうと彼はすこぶる上機嫌になり、太巻のハートメンに火を点け、卓上から嘗試集《しょうししゅう》を攫み出し、床の上に横たわって見ていた。
「じゃ、あしたは出入の商人の方はどうしましょう」
 方太太は突然押掛けて来て床《とこ》の前に突立《つった》った。
「商人?……八日の午後来いと言え」
「わたしにはそんなことが言えません。向うで信用しません、承知しません」
「信用しないことがあるもんか。向うへ行って聞けばわかる。役所じゅうの人は誰一人貰っていない。皆八日だ」
 彼は人差指を伸ばして蚊帳の中の空間に一つの半円を画《えが》いた。方太太はその半円を見ていると、たちまちその手は嘗試集を攫んだ。
 方太太はこの横車押《よこぐるまおし》を見て、あいた口が塞がらなかった。
「わた
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