ろで育った学者だけあって、目が高い。乃公の豆は一粒|撰《よ》りなんだぜ。田舎者にゃわからねえ。全く乃公の豆は、ほかのもんとは比べ物にならねえ。乃公はきょう幾らか、おばさんのところへ持ってってやるんだ」
彼はそこで櫂を押して過ぎ去った。
わたしは母親に喚《よ》ばれて晩飯を食いに帰ったら、卓上の大どんぶりに煮立ての羅漢豆があった。これは六一爺さんがわたしの母とわたしに食べさせるために贈ってくれたもので、彼は母親に向って、わたしのことを箆棒《べらぼう》にほめていたそうだ。
「年はいかないが見上げたもんだ。いまにきっと状元《じょうげん》に中《あた》るよ。おばさん、おめえ様の福分は乃公が保証しておく」
わたしは豆を食べたが、どうしてもゆうべの豆のような旨みは無かった。
まったく、それからずっと今まで、わたしは本当にあの晩のようないい豆は二度と食べたことはなかった。――あの晩のようないい芝居も二度と見たことはなかった。
[#地から4字上げ](一九二二年十月)
底本:「魯迅全集」改造社
1932(昭和7)年11月18日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際
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