いて、舞台の下にたくさんの頭を見たが、よく気をつけて見なおすと、まん中にまだ幾つかの空席があったから、そこへ行って坐ろうとした時、わたしに向って、何か言った者があった。最初はガンガンという銅鑼《どら》の音で、よく聞えなかったが、注意して聞くと、「人が来るから、そこへ坐ってはいけない」というのだ。
 わたしどもはぜひなく後ろへ引返して来ると、辮子《べんつ》のぴかぴか光った男が、わたしどもの側《そば》へ来て一つの場所を指さした。その場所は細長い腰掛で幅はわたしの上腿《じょうたい》の四分の三くらい狭く、高さは下腿《かたい》の三分の二よりも高い。まるで拷問の道具に好く似ているので、わたしは思わずぞっとして退《しりぞ》いた。
 二三歩あるくと、友達が、「君、どうしたんだえ」とわたしのあとから跟《つ》いて来た。
「なぜ行《ゆ》くのだ。返辞《へんじ》をしたまえな」
「いやどうも失敬、なんだかドンドンガンガンして、君のいうことはサッパリ聞えないよ」
 あとで考えてみると、全く変なことで、この芝居はあまり好くなかったかもしれない。でなければわたしは舞台の下にじっとしていられない質《たち》なんだろう。
 
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