ひ》が人質を浚《さら》ってゆく。もし人質に取られたら、幸福な家庭はすぐに不幸な家庭になってしまう。そうかといって上海《シャンハイ》、天津《てんしん》の租界へ置けば家賃が高い。じゃ外国へ置くとしたらいい笑い話だ。雲南《うんなん》、貴州《きしゅう》は交通があまりに不便で、どんな風だか解らん……」彼は思いめぐらしてみたが、適当の場所を想い出せない。そこでA《エー》と仮定した。「今でもアルファベットで人名地名を書き現わすと、読者の興味を減少するという者が少くはない。今度の俺の投稿では、これを用いない方が安全だ。それでは、どこがいいだろうかな? 湖南《こなん》も戦争だ。大連《たいれん》はやはり家賃が高い。察哈爾《チチハル》、吉林《きちりん》、黒竜江《こくりゅうこう》は――、馬賊が出るというし、こいつもいけない!……」そこで、いくら考えてみても格別にこれといった所もないので、「幸福な家庭」の所在はAということに仮定した。
「つまり、この幸福の家庭がAに在ると極《き》めれば問題はない。家庭にはもちろん一組の夫婦があって、とりもなおさず、それが主人と主婦で、自由結婚だ。彼等は四十何個条かの非常に詳細な
前へ
次へ
全16ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング