恋愛、結婚、家庭などと来ては。……そうだ、この点についてはたしかに多くの人が悩んでいて、ちょうど今いろいろ討論中である。では家庭を書いてみよう。それはそうとどんな風に書こうかな……そうしなければ没書になる恐れがあるし、わざわざ時勢に背く必要もない。それはそうと……彼はベッドから跳上《はねあが》ると、五六歩進んでテーブルの前に行《ゆ》き、緑罫の原稿用紙を一枚取ると、ぶっつけに、やや自棄《やけ》気味にもなって、次のような題を書いた。
「幸福な家庭」
 だが、彼の筆はたちどころに渋った。彼は仰向になって両眼を屋根裏に※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りながら、「幸福の家庭」の置場を考えてみた。「北京は? 駄目だ。全く沈み切ってしまって空気までも死んでいる。よしんば家庭のまわりを高塀が、ぐるりと囲んでいるにもせよ、まさか空気を遮断することは出来まい。つまり駄目だ! 江蘇浙江《こうそせっこう》は毎日戦争の防備をしているし、福建《ふくけん》と来たらなおさら盛んだ。四川《しせん》、広東《カントン》は? ちょうど今戦争の真最中だし、山東《さんとう》、河南《かなん》の方は? おお土匪《ど
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