さっぱりと」
 啜り泣きの声がますます大きくなってきたので、彼はまたも立上り、門幕《カーテン》を潜《くぐ》り出て、「マルクスは子供の泣声の中でも、資本論を書き上げたから彼は偉人である……」と、考えながら、外に出て風除けの戸を開けると、石油の匂いがぷんとした。子供は門の右辺に横たわって顔を地面《じべた》に向けていたが、彼の顔を見るとわっと泣き出した。
「おお、よしよし。泣くでないぞ泣くでないぞ。好い子だ」
 と、彼は腰を曲げて女の子を抱いた。
 彼が子供を抱いて行《ゆ》こうとすると、門の左の所には妻が立っていて、腰骨を真直ぐにして両手を腰に置き、怒気憤々《どきふんぷん》としてさながら体操の操練《そうれん》でも始めそうな勢《いきおい》。
「あなたまでもわたしを馬鹿にするんだね。人の仕事の手伝いもしないで、邪魔するだけだ。――その上、洋灯《ランプ》をひっくりかえしったら晩には何を点《つ》けるんです?……」
「おお、よしよし、泣くでないぞ泣くでないぞ」
 彼は顫《ふる》え声を跡に残して子供を部屋に抱き入れ、頭を撫でて「好い子だ好い子だ」といいながら下へ卸し、椅子を引寄せて子供を両膝の間に置いて
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