るにもせよ、まず第一にドアがノックされねばならぬ。――こういう風なら安心していられる。彼女が白菜なぞを抱え込んで来るはずがないのだから
『Come in, please my dear.』
 しかしだ。主人公が文芸なぞを語っている閑がない時にはどうしたものだろう。いっそ放《ほ》ったらかしておくか。彼女が外に立って、いつまでもドンドン叩いていたら? そんなことはまずまず出来ないことだ。そういうことは、ひょっとすると、『理想の良人』の中に出ているかもしれない。あれはたしかにいい小説に違いない。今度原稿料が入ったら一冊買ってみてやろう……」
 ピシャリ!
 彼の腰ッ骨は、ピンとなった。と云うのもこれまでの経験で、このピシャリの音は、妻が三つになる女の子の頭をひっぱたく音だからだ。
「幸福な家庭……」彼は子供のしゃくり上げる声を聞きつけた。
 彼はまだ腰をピンとさせたまま考えていた。
「子供は遅く出来るものは遅く出来るが、あるいはいっそない方がいいのかもしれない。二人でキレイさっぱりと――あるいはいっそ下宿住まいをする方がいいのかもしれない、あとは何もかもあいつ等に請負わせて、自分一人でキレイ
前へ 次へ
全16ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング