いうお客様は大抵|袢天著《はんてんぎ》の方だからなかなかそんな贅沢はしない。中には身装《みなり》のぞろりとした者などあって、店に入るとすぐに隣接した別席に著き、酒を命じ菜を命じ、ちびりちびりと飲んでる者もある。
わたしは十二の歳から村の入口の咸享酒店《かんこうしゅてん》の小僧になった。番頭さんの被仰《おっしゃ》るには、こいつは、見掛けが野呂間《のろま》だから上客の側《そば》へは出せない。店先の仕事をさせよう。店先の袢天著は取付き易いが、わけのわからぬことをくどくど喋舌《しゃべ》り、漆濃《しつこ》く絡みつく奴が少くない。彼等は人の手許をじろりと見たがる癖がある。老酒《ラオチュ》を甕の中から汲み出すのを見て、徳利の底に水が残っていやしないか否かを見て、徳利を熱湯の中に入れるところまで見届けて、そこでようやく安心する。こういう厳しい監視の下には、水を交ぜることなんかとても出来るものではない。だから二三日経つと番頭さんは「こいつは役に立たない」と言ったが、幸いに周旋人の顔が利き、断りかねたものと見え、改めてお燗番のような詰らぬ仕事を受持たされることになった。わたしはそれから日がな一日|櫃台《
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