、小鴨がお玉杓子を食べてしまったことを報告した。
「おや、おや」
 小鴨の黄色い毛が褪せるようになってからエロシンコ君はたちまちロシヤの母親を想い出し、チタに向って※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そうそう》立去った。
 四方の蛙が鳴く時分になると、小鴨は十分成長した。二つは白、二つは斑《ぶち》で、そうしてもうピヨピヨと言わなくなって、ガヤガヤというようになった。蓮池は彼等を入れるにはもうあまりに小さくなった。
 幸いにして仲密の屋敷の地勢は低地であったから、一度夕立が降ると庭じゅう水溜りになり、彼等は嬉しげに泳ぎ、もぐり、羽ばたきしてガアガアと叫ぶ。
 現在また夏の末から冬の初めに変るところだ。しかしエロシンコ君からは絶えて消息がない。一体どこに行ってるかしらん。
 ただ四つの鴨があるだけで、それがやはり沙漠の上でガアガアと叫ぶ。
[#地から4字上げ](一九二二年十月)



底本:「魯迅全集」改造社
   1932(昭和7)年11月18日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の書き
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