ろに尋ねた。「お前はまだほかに何か言うことがあるかね」
 阿Qはちょっと考えたが別に言うこともないので、「ありません」と答えた。
 長い著物を著た人と短い著物を著た人が大勢いて、たちまち彼に白金巾《しろかたきん》の袖無しを著せた。上に字が書いてあった。阿Qははなはだ心苦しく思った。それは葬式の著物のようで、葬式の著物を著るのは縁喜《えんき》が好くないからだ。しかしそう思うまもなく彼は両手を縛られて、ずんずんお役所の外へ引きずり出された。
 阿Qは屋根無しの車の上に舁《かつ》ぎあげられ、短い著物の人が幾人も彼と同座して一緒にいた。
 この車は立ちどころに動き始めた。前には鉄砲をかついだ兵隊と自衛団が歩いていた。両側には大勢の見物人が口を開け放して見ていた。後ろはどうなっているか、阿Qには見えなかった。しかし突然感じたのは、こいつはいけねえ、首を斬られるんじゃねえか。
 彼はそう思うと心が顛倒《てんとう》して二つの眼が暗くなり、耳朶の中がガーンとした。気絶をしたようでもあったが、しかし全く気を失ったわけではない。ある時は慌てたが、ある時はまたかえって落著《おちつ》いた。彼は考えているうちに
前へ 次へ
全80ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング