ついた。
庵は春の時と同じような静けさであった。白壁と黒門、彼はちょっと思案して前へ行って門を叩いた。一疋《いっぴき》の狗が中で吠えた。彼は急いで瓦のカケラを拾い上げ、もう一度前へ行って、今度は力任せにぶっ叩いて黒門の上に幾つも痘瘡《あばた》が出来た時、ようやく人の出て来る足音がした。
阿Qは慌てて瓦を持ちなおし馬のように足をふんばって、黒狗と開戦の準備をした。だが庵門はただ一すじの透間《すきま》をあけたのみで、黒狗が飛び出すことはないと見たので、近寄って行《ゆ》くと、そこに一人の老いたる尼がいた。
「お前はまた来たのか。何の用だえ」と尼は呆れ返っていた。
「革命だぞ。てめえ知っているか」と阿Qは口籠《くちごも》った。
「革命、革命とお言いだが、革命は一遍済んだよ。……お前達は何だってそんな騒ぎをするんだえ」尼は眼のふちを赤くしながら言った。
「何だと?」阿Qは訝《いぶか》った。
「お前はまだ知らないのだね。あの人達はもう革命を済ましたよ」
「誰だ?」阿Qは更に訝った。
「秀才と偽毛唐さ」
阿Qは意外のことにぶっつかってわけもなく面喰った。尼は彼の出鼻をへし折って隙《すか》さず門
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