近寄らなかった。ほかの人達もまた同じようであった。
阿Qはこの時、未荘の人の眼の中の見当では、趙太爺以上には見えないが、たいていおつかつの偉さくらいに思われていたといっても、さしたる語弊はなかろう。
そうこうする中《うち》にこの阿Qの評判は、たちまち未荘の女部屋の奥に伝わった。未荘では錢趙両家だけが大家《たいけ》で、その他はたいてい奥行が浅かった。けれども女部屋はつまり女部屋であるから一つの不思議と言ってもいい。女どもは寄るとさわるときっとその話をした。鄒七嫂が阿Qの処から買った一枚のお納戸絹《なんどぎぬ》の袴は古いには違いないが、たった九十仙だった。趙白眼の母親も――一説には趙司晨の母親だということだが、それはどうかしらん――彼女もまた一枚の子供用の真赤な瓦斯織《がすおり》の単衣物《ひとえもの》を買ったが、まだちょっと手を通したばかりの物がたった三百|大銭《だいせん》の九二|串《さし》であった。
そこで彼等は眼を皿のようにして阿Qを見た。絹袴が無い時には、絹袴の出物は無いかと彼に訊《たず》ねてみたく思った。瓦斯織の単衣《ひとえ》がほしい時には、瓦斯織の単衣の出物は無いかと彼に訊
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