Qは三歩退き、遂にまた二人とも突立った。およそ半時間……未荘には時計がないからハッキリしたことは言えない。あるいは二十分かもしれない……彼等の頭はいずれも埃がかかって、額の上には汗が流れていた。そうして阿Qが手を放した間際に小Dも手を放した。同じ時に立上って同じ時に身を引いてどちらも人ごみの中に入った。
「覚えていろ、馬鹿野郎」阿Qは言った。
「馬鹿野郎、覚えていろ」小Dもまた振向いて言った。
この一幕《ひとまく》の「竜虎図」は全く勝敗がないと言っていいくらいのものだが、見物人は満足したかしらん、誰《たれ》も何とも批評するものもない。そうして阿Qは依然として仕事に頼まれなかった。
ある日非常に暖かで風がそよそよと吹いてだいぶ夏らしくなって来たが、阿Qはかえって寒さを感じた。しかしこれにはいろいろのわけがある。第一腹が耗《へ》って蒲団も帽子も上衣《うわぎ》もないのだ。今度棉入れを売ってしまうと、褌子《ズボン》は残っているが、こればかりは脱ぐわけには行《ゆ》かない。破れ袷が一枚あるが、これも人にやれば鞋底の資料になっても、決してお金にはならない。彼は往来でお金を拾う予定で、とうから心掛
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