そうと思ってあちこち捜した。しばらく経ってやっと一つ捉《とら》まえたのは中くらいの奴で、彼は恨めしそうに厚い脣の中に押込みヤケに噛み潰すと、パチリと音がしたが王※[#「髟/胡」、134−4]の響《ひびき》には及ばなかった。
 彼は禿瘡の一つ一つを皆赤くして著物を地上に突放し、ペッと唾を吐いた。
「この毛虫め」
「やい、瘡《かさ》ッかき。てめえは誰の悪口を言うのだ」王※[#「髟/胡」、134−7]は眼を挙げてさげすみながら言った。
 阿Qは近頃割合に人の尊敬を受け、自分もいささか高慢稚気《こうまんちき》になっているが、いつもやり合う人達の面を見ると、やはり心が怯《おく》れてしまう。ところが今度に限って非常な勢《いきおい》だ。何だ、こんな※[#「髟/胡」、134−9]《ひげ》だらけの代物が生意気|言《い》やがるとばかりで
「誰のこったか、おらあ知らねえ」阿Qは立ち上って、両手を腰の間に支えた。
「この野郎、骨が痒くなったな」王※[#「髟/胡」、134−12]も立ち上がって著物を著た。
 相手が逃げ出すかと思ったら、掴み掛《かか》って来たので、阿Qは拳骨を固めて一突き呉《く》れた。その拳骨が
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