ま》に入った。気がついてみると、あれほどあった彼のお金は一枚も無かった。博奕場にいた者はたいていこの村の者では無かった。どこへ行って訊き出すにも訊き出しようがなかった。
まっ白なピカピカした銀貨! しかもそれが彼の物なんだが今は無い。子供に盗《と》られたことにしておけばいいが、それじゃどうも気が済まない。自分を虫ケラ同様に思えばいいが、それじゃどうも気が済まない。彼は今度こそいささか失敗の苦痛を感じた。けれど彼は失敗を転じて遂に勝ちとした。彼は右手を挙げて自分の面《おもて》を力任せに引ッぱたいた。すると顔がカッとして火照《ほて》り出しかなりの痛みを感じたが、心はかえって落ち著《つ》いて来た。打ったのはまさに自分に違いないが、打たれたのはもう一人の自分のようでもあった。そうこうするうちに自分が人を打ってるような気持になった。――やっぱり幾らか火照《ほて》るには違いないが――心は十分満足して勝ち慢《ほこ》って横になった。
彼は睡ってしまった。
第三章 続優勝記略
それはそうと、阿Qはいつも勝っていたが、名前が売れ出したのは、趙太爺の御ちょうちゃくを受けてからのこと
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