進行してお終《しま》いになる。それから彼は未練らしく土穀祠《おいなりさま》に帰り、翌日は眼のふちを腫らしながら仕事に出る。
 けれど「塞翁《さいおう》が馬を無くしても、災難と極《き》まったものではない」。阿Qは不幸にして一度勝ったが、かえってそれがためにほとんど大きな失敗をした。
 それは未荘の祭の晩だった。その晩例に依って芝居があった。例に依ってたくさんの博奕場《ばくちば》が舞台の左側に出た。囃《はやし》の声などは阿Qの耳から十里の外へ去っていた。彼はただ堂元の歌の節だけ聴いていた。彼は勝った。また勝った。銅貨は小銀貨となり、小銀貨は大洋《だーやん》になり、大洋《だーやん》は遂に積みかさなった。彼は素敵な勢いで「天門両塊《てんもんりゃんかい》」と叫んだ。
 誰と誰が何で喧嘩を始めたんだか、サッパリ解らなかった。怒鳴るやら殴るやら、バタバタ馳け出す音などがしてしばらくの間眼が眩んでしまった。彼が起き上った時には博奕場も無ければ人も無かった。身中《みうち》にかなりの痛みを覚えて幾つも拳骨を食《く》い、幾つも蹶飛《けと》ばされたようであった。彼はぼんやりしながら歩き出して土穀祠《おいなりさ
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