って立去る。
 阿Qは最初この事を心の中《うち》で思っていたが、遂にはいつも口へ出して言った。だから阿Qとふざける者は、彼に精神上の勝利法があることをほとんど皆知ってしまった。そこで今度彼の黄いろい辮子を引掴《ひっつか》む機会が来るとその人はまず彼に言った。
「阿Q、これでも子供が親爺《おやじ》を打つのか。さあどうだ。人が畜生を打つんだぞ。自分で言え、人が畜生を打つと」
 阿Qは自分の辮子で自分の両手を縛られながら、頭を歪めて言った。
「虫ケラを打つを言えばいいだろう。わしは虫ケラだ。――まだ放さないのか」
 だが虫ケラと言っても閑人は決して放さなかった。いつもの通り、ごく近くのどこかの壁に彼の頭を五つ六つぶっつけて、そこで初めてせいせいして勝ち慢《ほこ》って立去る。彼はそう思った。今度こそ阿Qは凹垂《へこた》れたと。
 ところが十秒もたたないうちに阿Qも満足して勝ち慢《ほこ》って立去る。阿Qは悟った。乃公は自《みずか》ら軽んじ自ら賤《いや》しむことの出来る第一の人間だ。そういうことが解らない者は別として、その外の者に対しては「第一」だ。状元《じょうげん》もまた第一人じゃないか。「人を
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